走れダイエットランナー!

はからずも52にして人生を再スタートすることになりました。健康を取り戻し、また走り始めたい!

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水都大阪ウルトラマラソン外伝3・矢、尽き。刀、折れ。それでも、ゴールを目指したランナーたちの物語。3-1 岩田栄美さんの場合

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岩田栄美さんの場合

 

水都大阪ウルトラマラソン、70km、ピンクのゼッケンをつけて参加するのは5回目だ。コースも、時間配分も熟知している。

 

今年は調子がいいとは言えなかった。去年は良かった。11時間の制限時間まで1時間近くを残してゴールできた。

 

しかし、今年はギリギリだ。

 

ついに、淀川を出た。大川に沿って南下し、大阪城につながる橋を見落としさえしなければゴールできる。

 

時間はギリギリだ。でも大丈夫、きっとゴールできる。

 

50メートル前方を、黒のゼッケン、100kmの女性ランナーが走っている。100kmをこの時間、つまり11時間で走破して来たランナーだ。その足取りはアタシなんかとは比較にならないくらい力強い。

 

追いつけはしないだろう、でも彼女の背中が見えてさえいれば大丈夫だ、そう思って、その背中を追いかけていた。

 

行楽日和の大川沿いには家族連れが多く、その人たちを縫うように走る。落ち着いて。このペースを維持しさえすれば、きっと大丈夫。

 

ギリギリだけれど、数分前にはゴールできる。

 

大川の5kmが長い。限界をとうに越えた足の筋肉、足の関節。上半身さえ、筋肉が悲鳴をあげる中、少ない時間を焦り、周囲を取り囲むたくさんの観光客に神経を使いながら、可能な限りの速度で走る、走る。

 

大阪城に近づくにつれ、周囲の公園で遊ぶ人の数は少なくなって来た。少し落ち着いて走れるようになって来た。

 

この時期、まだ桜が残っていて、花見をしているグループがいた。桜は大好きだ。そちらに目をやった。

 

一瞬の油断があった。

 

視線は前方の桜に気を取られ、足元が土から砂利に変わったことに気づかなかった。

 

右足が、砂利に滑った!!

 

左足に体重を乗せる!!

 

しかし、とっさに全体重を支え切るには、68kmを走った筋肉は痛みきっていた!

 

転倒した!!右ヒザを激しく強打した!!

 

左手で上体の強打を防ぐ、が、右肩、右胸を強打した!!

 

砂利の細かい凹凸で、転倒の衝撃は倍増していた。

 

その大きな音に驚いた前方の女性ランナーが、わざわざアタシのもとに駆け寄ってくれた。

 

「大丈夫ですか?」

 

彼女は聞いた。

 

「はい、大丈夫です!」

 

アタシは力強く答え、立ち上がった。その姿を見て、女性ランナーは再び走り出した。

 

彼女の姿を見ながら…

 

アタシは、強打した右ヒザが激しく痛むのを感じた。骨の奥まで痛みが響いている!骨折したかもしれない。

 

強打した右胸、呼吸ができない…

  

ふっと、意識が遠のくのを感じた。

 

しかし、68kmまで走破してきたアドレナリンがそれを救った!

 

アタシは集中した!

 

あと2km!

 

動け!動け動け、アタシ!!

 

骨に異常がないか確かめるんだ!

 

右ヒザを見る。大事なCW-Xのタイツが。もう10年も、アタシの足を守ってくれたタイツが、無残に破れていた。

 

その奥の皮膚も裂け、出血している。かなりの量だ。

 

右足に体重をかける。骨まで響く強打であった。ヒザの奥まで、重く鈍い痛みがあるが…

 

骨折はしていないようだ。

 

ならばまだ走れる!!

 

全身の筋肉痛とは、もうずっと付き合って来た。そしてたった今、新たに仲間になった、右ヒザ、右肩の痛みさえ受け入れて、再び足を前に出した!

 

転倒し、立ち上がり、再起動するまで、2分か、3分は無駄にした!!

 

もういよいよ時間がない!!

 

大阪城が見えた、あと少しだ!!

 

場内に入る、すぐに左手にゴールゲートが見えてくるが、コースは直進なのだ!ゴールを見ながらさらに進み、急な上り坂・雁木坂を登る!!

 

もう走って登れない!!それでも、すべての体重を前にかけて、倒れこむ力を利用して、この急坂を登った!!

 

両足の筋肉が軋む音が聞こえるようだった!!

 

ごめんね両足!もうちょっとだけ、もうちょっとだけ我慢して!もう時間がない、いたわってる時間はない、アタシの全速力を出さないと、もう間に合わない!!

 

急坂を登り切る!!コースを示すスタッフさんが必死に叫んでいる!!

 

「急いで!急いで!あと5分しかない!!」

 

わかってるわよそんなこと!!

 

天守閣の真下に走り込む!ここが最後のチェックポイントだ!

 

ゼッケンにスタンプをもらう!!スタンプ係のスタッフさんがアタシ以上に焦って、スタンプをうまく押せない!!

 

「早く!早く!」

 

天守閣を離脱、あとはゴールするだけだ!!

 

雁木坂、今度は下る!!下り坂こそ、実は大腿部への負担が大きい!でももう、筋肉に気を使っている時間はない!!

 

全速力で坂を下る!!

 

「急いで!急いで!!まだ間に合う!!」

 

全スタッフさんがアタシに声援をくれた!!

 

69.9kmも走ったのに、100メートル走のような全速力で走った!!

 

ゴールだ、ゴールだ、待ち望んだ、ゴールだ!!

 

アタシは全力で、ゴールテープを切った!!

 

ゴールした!

 

ゴールしたんだ!!

 

そう思ったその瞬間、アタシを支えていた気力の糸が、プツンと切れた。

 

ゴールゲートの真下に座り込み、動けなくなった…

 

完踏証を印刷したスタッフさんが、動けずにいるアタシの元に駆け寄り、完踏証を手渡そうとした、その時…

 

そこに印刷された文字を見て、スタッフさんが凍りつくのがわかった。

 

アタシも、それを見た。

 

11時間

 

00分

 

45秒。

 

45秒…

 

45秒、間に合わなかったんだ…

 

そ、そんな…

 

もう足も、気力も、尽き果てた。

 

ゴールできると思ったのに…

 

あの砂利で、コケなかったら…

 

あのエイドを、もう少し早く出ていたら…

 

全身から力が抜けた。頭が、真っ白になった。

 

何も考えられずに、ただ、座り込んでいた…

 

ダメだった…11時間も走り続けたのに…

 

『ごめんなさいね、そこに座ってちゃダメ、危ないから』

 

場内にマイクの声が響いた。マイクをつけたまま、大会主催者の佐田富美枝さんが、アタシに話しかけたのだ。

  

佐田さんはマイクのスイッチを切り、アタシのそばまでやって来て、言った。

 

「見てましたよ、ほんとにあと少しでしたね…」

 

「え、ええ…」

 

「ひざ、ケガされたんですか?大丈夫?」

 

「は、はい、大丈夫です…」

 

「たいへん申し訳ないんだけど、規定で、完走メダルも、完踏証も、差し上げることができません」

 

「…」

 

「だけど、」

 

佐田さんは周囲を伺うような仕草を見せ、茶目っ気たっぷりにアタシを見た。

 

「このタオル。フィニッシャータオルだけは、持って行って。みんなには内緒やで!」

 

「あ…。ありがとうございます」

 

「また来年、来てね!」

 

佐田さんはそう言って、主催者席に戻った。

 

なんか…

 

ぽっかり空いた、心の穴に、ポッと、明るい火がついた瞬間だった。

 

また来年、来なきゃ。

 

リベンジのために。

 

アタシはそう思った。そして、立ち上がった。

 

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